97年11月15日号の特集記事紹介

●病院経営の無策ぶりに危機感つのる

“武士の商法”的な病院は消えるのみ

医療はサービス業であることの自覚を

 破綻寸前の医療保険財政が明るみに出る一方で、病院経営の危機管理が注目されている。先頃、仙台市で開かれた第三十五回日本病院管理学会のシンポジウムでは、国家公務員共済組合連合会の黒田幸男氏が「リストラも含め思い切った病院経営の多角化、病院運営の多様化が必要」と、具体的な経営改善項目を示し、赤字に悩む病院経営者の無策ぶりに危機感をつのらせた。一般企業では、経営の効率化と大規模なリストラが断行される中で、病院経営に対する効率化も社会問題になってきている。


日本病院管理学会の会場

 第三十五回日本病院管理学会は七百名に近い参加者で例年にない盛り上がりをみせた。テーマは「医療と病院を科学する」で採用演題数も百二十八題と同学会史上最多となった。こうした背景には医療保険の財政難が明るみに出たことで病院経営に危機感を募らせる関係者の関心の高まりがあるものとみられている。九月から施行された改正医療保険法で、本人負担が二割になったことから病院の外来患者が軒並み減った。全国に三十七施設ある国家公務員共済病院の調査では六〜七パーセントの減少という。こうした最近の傾向が学会参加者の増大につながったともうけとれる。

 この学会で注目されたのは、二日目の朝八時半から二時間半にわたって行われたシンポジウム「病院の意思決定と危機管理」であった。なかでも国家公務員共済組合連合会参与の黒田幸男氏が、病院における経営・運営上の具体的な問題点を挙げ、さらに改善のための三段階のリストラを示したことは関係者に強い衝撃と関心をもたらした。
 黒田氏は「病院の経営危機管理で最も重要なことは、その存続と患者サービスの充実により収益を上げていくことにある。したがって、一般的な経営改善をしても効果がない場合には当然リストラも必要になってくる」と述べた。

 一方、同じくシンポジストとして病院経営の立場から発言した医療法人広瀬病院の前澤祥院長は「診療と看護が病院における最大の目的であり、その活動の中心的役割を担うのが医師であり看護婦である。一般企業の経営と病院経営の最大の違いは、いうまでもなく利益追求の対象が商品というモノにある企業に対して、病院では病める人間そのものが対象になるという違いであり、そこに医療の質を高めながら経営を効率化していく難しさがある」と一般企業の効率化をそのまま医療に当てはめて考えることに懸念を示した。

 しかし、それらを公平にしかも総合的に価値判断して改革してゆかねばならないのであって、経営に携わる医師の裁量を越えた判断と実行が求められる時代になったのである。  また、看護職を代表する立場からは東北厚生年金病院の小松京子看護部長が、「インフォームド・コンセントを充実させ、患者、家族の安心感を高めるとともにチーム医療を促進し、業務改善につなげる努力が必要である。また、病院職員の半数余りを有する看護職の中から病院の意思決定にかかわる人材を出さないのはおかしい」と述べ、これには、フロアーからも同意見があった。

 だが、これらの意見も看護の基本でありこれまでも何度となく叫ばれてきたことである。それが実現していないからこそ、今だに患者の医療不信は消えないのではないだろうか。  一般企業では経営の効率化や生き残りを賭けた大規模なリストラは、バブル崩壊以降幾度となく実施されている。利潤追求をするのであれば、しっかりした経営手腕が問われるのは当然のことで、病院だけが聖域というわけには行かないのである。
 「議論百出は当然のこと。当たり前の問題でも本音と建て前があり、現状の厳しい財政下では余裕も見方をかえればムダとしかいいようがない」と黒田氏はいう。


危機感だけでは病院は救われない
病院機能の仕組みを作らねば...と黒田氏

 国家公務員共済組合の黒田幸男氏は、現状の医療保険財政の困難さから見て、病院の経営改善は量から質へのリストラが基本であるとし、リストラを段階的に次の三つにまとめた。
 第一のリストラは、固定費の削減である。病院の固定費は総経費の七〇パーセントであり、その五〇パーセントは人件費である。人のムダ、時間のムダ、動線のムダ、作業手順のムダなどローコスト・ハイクオリティーの精神で改革する事が重要。経営体質の軽量化を図るために人件費削減は避けて通れない。
 第二のリストラは、事業の縮小化。機能分担・機能連携の強化を図る。
 第三のリストラは、病院組織の統廃合。命令系統の乱れ、縄張り意識の増大などは採算構造の悪化を招く。
 さらに、予防医学、健康管理分野への積極参入や、療養型病床群などへの移行。空床利用のオープン化、医療機器の貸出しなどをする。それでもダメな病院はもはや地域社会がその必要性を感じていないと判断すべきであるとした。


(C) IRYOU SHIMPO 1997



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