98年1月15日号の特集記事紹介

●「国」の介護政策に業を煮やし「地方」が動く

住民参加の介護支援など対応模索

昨年末には福祉治自体ユニット設立

 超高齢化社会は、すでに現実のものとなっている。過疎化の進んだ山間地域や離島、半島の市町村がそれだ。これらの市町村の中には、遅々として進まない国の福祉行政に業を煮やし、独自の政策とシステムで現実の荒波と戦っているところがある。こうした福祉施策の先進市町村の経験を互いに学び合い、今後都市部において急速に進行する高齢化への対応を考えるため、地方自治体の首長およそ百名が集まって、昨年十一月都内で「福祉自治体ユニット」を設立した。我が国の介護問題は、地方政治そのものとして動き出したようだ。

福祉自治体ユニット設立総会の会場

 平成十二年四月から導入が決まった介護保険だが、給食サービスや自立支援は近隣住民の助け合いやボランティアに頼らざるを得ないことをハダで感じている地方の市町村長が、そうした介護労働力創出という厳しい現実に立ち向かって、昨年十一月末都内で「福祉自治体ユニット」の設立総会を開いた。住民に最も近い政治家としての責任を果たすべく、住民参加の「介護支援」を打ち出して、全国の市町村長およそ百名が集結した。それはまるで時代を変えたあの明治維新の時に、地方から輩出した志士たちのような熱い思いを胸に抱いての参加であった。
 「地方政治というのは住民の生活と安全、人権を守ることにある。したがって介護を含めた福祉は政治そのもの。我々は福祉をやっているのではなく、まさに政治そのものをやろうとしている」と、高齢者福祉先進自治体として知られる秋田県鷹巣町の岩川徹町長は、設立記念シンポジウムで一言一言かみ砕くようにして訴えた。そして、住民と行政の「共同作業」を実現させるためには、政策の立案、実施、評価の課程をすべて公開し、住民の意思を反映させるシステム作りを最重要テーマとして挙げた。
 鷹巣町では平成四年、「福祉の町づくり懇話会」を設置し、町民と役場職員によるワーキンググループが発足。このワーキンググループの活動は、町の高齢者の実態を把握することから始まった。在宅介護の対象家庭を訪問し、本人、家族の希望や意見など生の声を聞き、それをもとに綿密な検討を重ねた。その結果八十項目以上の問題点が提起されたという。それらの問題点を「すぐできること」「少し工夫すればできること」「予算化しないとできないこと」に分類。その結果、わが国で最も進んだ福祉先進自治体としての具体的成果を実らせた。

 これらの活動には現在、百五十名の町民が参加している。住民が参加して作り上げたという住民と行政の一体感がこの町の行政に対する信頼を復活させたといわれているのである。同町では、現在ホームヘルパー五十三名が登録され活動している。
 また、同じくシンポジストとして発言した東松山市の坂本祐之輔市長は、同市がめざしている障害者福祉と高齢者福祉の両立のなかで実現させた、二十四時間巡回型ホームヘルプサービス事業や配食サービス事業の実施内容などを披露した。埼玉県東松山市は人口九万二千を擁する中堅都市だが、そのうちの十一%、およそ一万人が六五歳以上のお年寄りで占められている。平成九年度の市の予算はおよそ四百六十五億円という規模だが、従来の土建中心の行政から介護基盤整備への転換が成功したケースとして知られている。
 こうしてシンポジウムは実践報告と情報の交換に熱気さえ感じられるものとなり、介護問題はあたかも地方政治の夜明けのごとく動き出している。

(C) IRYOU SHIMPO 1997



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