98年3月15日号の特集記事紹介

●看護職の専門性発揮の時代がやってきた

患者サービスに直結、病院の信頼度も左右

 医師と患者の双方の架け橋になることで、看護職の専門性をもっと発揮しようと いう動きが活発になってきた。高志リハビリテーション病院にみられるように看護職員 が独自に住民や入院患者の家族を対象に介護教室を開くなど、専門職としての責任ある 業務と地位を確保しながら、“開かれた病院”をアピールしようというのもそうした 動きのひとつだ。患者にとって、医師よりも気安く相談できる看護婦がいるかどうかに よって病院の信頼度が大きく左右される時代がやってきたのである。

シンポジウムを企画・立案し、
司会を務めた小島通代教授(左端)


犬島豊子さん

 「患者の立場に立つという看護の基本に徹しようとするとき、看護職は、医師との意見調整や矛盾の解決を迫られ、双方の板挟みになってしまうことがある」と、小島通代(東大医学部健康科学・看護学科教授)さんは、著書「看護ジレンマ対応マニュアル」(医学書院)の中で指摘している。その小島さんの企画で、先ごろ東京で開催された「第五回看護職の主体性に関する総合シンポジウム」では、病院の看護婦がとり組んだ介護教室の実施が、地域住民の理解を得たという発表があり、参加者の注目を集めた。  この病院は、富山県の高志リハビリテーション病院で、富山県が障害者のニーズの多様化に対応するため昭和五十九年に設立した県立民営の病院。同病院の看護婦として勤務している犬島豊子さんの報告では、介護教室は平成六年から看護婦が主体となってとり組んできたもので、ベッド上での移動、シーツ交換、洗髪、車椅子への移乗や食事、更衣、排泄の介助などの基本的なものが中心だが、「昨年は介護保険の実施が決まったこともあり、患者家族のほかに保険推進員やヘルパー、施設職員の参加も多くなった」という。  この活動が設置主体である県側にも認められ、平成七年、介護ニーズの高まるなか、それまで医療局の傘下にあった看護部を看護局として独立させ、訪問看護科を新設するという病院組織改革を行ったという経緯がある。今では「介護教室」も県の委託事業となっているという。  こうした画期的な病院の組織改革は良識だけではなかなか実現しないものだが、「リハビリの看護というのは本当に地味な仕事です。意見の衝突は毎日のようにありましたが、新しい病院を創るんだという情熱のようなものに引っ張られて、みんなの心が自然にまとまっていったような気がします」と、病院開設時から看護婦として働く犬島さんは当時を述懐する。  高志リハビリテーション病院は、事務局、医療局、看護局の三本柱で現在運営されている。以前は医療局の傘下に看護部が置かれていたわけだが、看護局になって何が変わったか、看護局長の稲田まつ江さんは次のように話す。  「基本的にやっていることは同じです。ただ、看護局で決めたことを直接院長に進言できるので、何事もすぐ結論を得られ、すぐ行動に移せるという点が、看護婦ひとり一人のやりがいに大きく影響していると思います。それだけ責任も重く、研鑽も積まなければならないという意識が私たちの中にも生まれたのではないでしょうか」  二十一世紀のわが国の医療は、慢性疾患の増加による看護の増大はもはや避けられない状況だ。それだけに看護職の専門性と地位が高められることで、さらなる患者サービスの充実を希求する声は高い。

医療現場で一番大切な問題

やっと公に論じられる世の中に


神山 五郎・鳥山診療所理事長

 「医療現場で一番大きな問題が、やっと公に論じられるようになったんだなぁ…というのが正直なところでしたね」
 世田谷区で開業する神山五郎医師はそう感想を漏らす。このシンポジウムが行われた東京大学の山上会館には二百名にのぼる看護職員が参集したが、その中に神山医師の姿もあった。
 「医者が患者さんのために少しでも良いことをしようと思ったならば、いま目の前にしている患者さんについて、もし自分が知らないことがあっても、それを知っているすべての人に聞いて治療に役立てるのは当たり前のことですよ。看護職も同じことです。この当たり前のことを継続していくのが医療なんじゃないですか。そして、その双方が知らない一番大事なことを知っているのが患者さん自身なんだから、我々は患者さんから教わるんです。専門性や主体性を発揮するというのは、医師であろうと看護職であろうと、目の前の患者さんが何を訴え、どう望んでいるかということを考えれば、自ずと次にとるべき行動はハッキリしてくるというものではないでしょうか」と、胸中を語った。
(C) IRYOU SHIMPO 1998



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