【医療新報】かわらばん
病気を”遊び心“で乗り越えよ

座って揺られて血糖値下げる
血圧や心臓に優しい「ジョーバ」




佐藤祐造教授
佐藤祐造教授
佐藤祐造・名古屋大教授が着目する
画期的な運動療法

 糖尿病、高血圧、肥満などの発症は、遺伝因子に加えて食事、運動などの生活習慣が深く関与しているとして、我が国でも平成十二年 四月から生活習慣病の予防を柱とした「健康日本21」が実施されるようになった。しかし、これらの内容は禁煙禁酒はもとより、規則正しく且つ継続的な運動が 不可欠とされていて、都市生活者にとっては「わかっちゃいるが…」といった半ば諦めの声さえ聞こえてくるのが現実だ。ところが、そんな諦めの声に応える 人物がいた。座っているだけで血糖値が下がる椅子があるというのである。さっそく話を聞きに名古屋大学に佐藤祐造教授を訪ねた。なんと、キーワードは 「遊び心」だった。
辛くて苦しい「闘病」しなくても
馬の背の動きが脊髄を刺激して…
馬の背の動きが脊髄を刺激して…
  「日本人には昔から”良薬口に苦し“ といって、体に良いものは痛かったり辛かったりするという考え方がありますよね。私が運動療法の研究を始めた頃は まだ、体を痛めつけるくらいの強い運動でないと効果がないと言われていた時代なんです。ところが実際はそうではなくて、弱い運動でも十分効果があることが 最近わかってきたんです」と、糖尿病と運動療法の分野では第一人者といわれる佐藤祐造教授(名古屋大学総合保健体育科学センター)は指摘する。その佐藤 教授がいま着目しているのが、腰掛けるだけで馬に乗っているのと同じような運動ができる「ジョーバ」と呼ばれる椅子だ。
 「最初は半信半疑だったのですが、グルコースクランプ法でブドウ糖の筋肉への取り込み量を調べてみると、確かに50%も増えることがわかったわけです」 (九月の日本体力医学会=静岡=で発表予定)
 つまり、食後に「ジョーバ」に乗ってユサユサと揺られれば血糖値が下がるということが確かめられたわけだ。いままでの辛く苦しい運動とは明らかに違う。 ひょっとしてこれは画期的なことではないのか。
 「強い運動というのは長続きしないし、むしろ害がある事もわかってきたわけです」と、さらに佐藤教授は続ける。
 「たとえば強い運動というのは、血圧を上げ、心臓発作の危険性を伴ったりします。さらに強い運動というのは、血糖値を上げてしまうこともある」
 佐藤教授によれば、糖尿病で怖いのはむしろ合併症の方で、高い血糖値がそのまま放置されることで生じる神経障害、糖尿病性腎症。さらには、糖尿病性網膜症 による失明、壊疽などという取り返しのつかない結果をまねくこともあるという。とくに運動不足と過食がもたらす「2型糖尿病(インスリン非依存性)は日本人 の糖尿病患者全体の約九割を占め、高血圧や心臓病を併発している人も少なくないそうだ。
 その点、腰掛けるだけの他動性の運動療法である「ジョーバ」は、血圧を上げることもなく、心臓にも負担がかからない。さらに膝の関節を痛める心配もない という。
 何しろ子供の頃に遊園地で乗った遊具のような「遊び心」の感覚なのだ。これなら続けられそうな気がするのは、果たして記者のみだろうか。
 
馬に癒されながら…
欧州に古くからある民間療法

 「乗馬療法」というのはヨーロッパでは古くからある民間療法といわれている。千葉県成田市荒海にあるサイトウ乗馬苑で、十年以上に  渡り障害者乗馬を実施している斉藤純子さんによれば、「馬の背に跨ると、人間が歩く時と同じような刺激が骨盤から上半身の筋肉に伝わり、背中に乗っている  だけで、歩くのと同じように筋肉や脊髄を刺激し続けるのです」というのである。また、インスリンの自己注射をしている人が乗馬後に血糖値を測ると、正常値に  おさまっていたという事も経験している。さらに、乗馬には「馬と騎乗者との間に生ずる精神的な要素」があり、馬の助けを借りながら人も癒されていくのだと  斉藤さんは語る。

【医療新報-かわらばん20030520】


 
インスリン感受性を数値化する  グルコースクランプ法とは
 インスリン感受性(血液中のブドウ糖濃度を下げる作用の強さ)を測定する方法で、1979年アメリカのデフロンゾ博士が考案した。
 血糖値が下がるということは、ブドウ糖が筋肉などの細胞中に取り込まれた結果、血液中のブドウ糖量が減ったということを示す。グルコースクランプ法 は、インスリンを持続的に注入した状態で、血糖値を一定に保つようグルコースを追加していく。
 つまり、インスリンを入れると血糖値が下がる。その血糖値を一定に保つために今度はブドウ糖を注入する。この状態で運動(ジョーバなど)をすると ブドウ糖は細胞内へと取り込まれ、ブドウ糖の血中濃度は低下する。低下した分だけ新たにブドウ糖を追加するが、この追加されたブドウ糖量はインスリン 感受性を示す指標として数値化できることになる。

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