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4月24日であった。訪日中のオバマ大統領は分刻みの多忙さを遣り繰りして出かけたのはお台場の科学未来館であった。
ここで、オバマ大統領はホンダのロボット「アシモ」とボールを蹴り合い、サッカーに興じた。
「このロボットは何に使うのですか」というオバマ大統領の質問に、ロボット「アシモ」生みの親は「東電原発のように何らかの故障で人が入れない場所が生じた
時、人間のかわりに作業します」と答えた。
オバマ大統領はその返答にいたく納得し、生みの親は胸を張ったであろう。なにしろ日本はものづくりの卓越した技術力が「奇跡の1本松」を鉄で再現してし
まったのである。
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鉄で作り上げた1本松。これはまさに想像を絶する作品となり、東京モーターショーに展示され、人々をびっくりさせた。
この「奇跡の1本松」の贈呈式で、一同に会したのは日本自動車工業会に加盟するメーカー14社の技術者たちであった。このプロジェクトは昨年7月、4か月後に
ひかえた東京モーターショーのイベントとして自工会の内部でもちあがったものである。
そこには、日本のものづくりの技を世界にアピールする堂々たる狙いがあったようだ。東日本震災からの復興を願い、日本のものづくりの健在ぶりを示そうと、
会社の壁を越えて力を合わせた技術者たちの物語は感動的であった。鉄板を曲げたり、たたいたりして加工する板金枝術で「1本松」を再現し、日本のものつくり
の技を世界にアピールするねらいだった。ロボット「アシモ」に結実した技術の成果とも反響しあって、みごとな“ものづくりの歌”を奏でたのであった。
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本物の10分の1の高さ2.6メートルの「1本松」はいたるところに、日本のモノづくりの技がいきている。たとえば、樹皮の微妙な風合いをだそうと、1〜3センチ
ほどの鉄の小片を約4000枚貼り付け、枝にはハンマーで小さな打痕を、何と10万個以上も打ちつけた。
こうした気の遠くなるような作業をこなしたのは若手技術者の登竜門として知られる技能五輪の優勝者たちだった。
形をまねるだけではダメだと、自工会会長でトヨタ社長の豊田章男の激励と注文はただひとつだった。「『生きた松』をつくってほしい」ということであった
のであ
る。これをうけて、人を感動させる「生きた松」とはなにか?若い技術者たちは自問自答をくりかえしながら、自分の技能をフルに発揮していった。
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奇跡の1本松は鉄製の幹に包まれて、陸前高田市に寄贈されていった。東日本大震災で死者・行方不明者2000人ちかくの被害を受けた陸前高田市は、自動車に
使われる鋼板でできた1本の松を寄贈され、これをみごと復興のシンボルとした。
陸前高田を案内した岩手県職員が1本松をみあげて漏らした「『奇跡の1本松』より1本松らしい」という言葉には、褒め言葉として、まさに千鈞の重みがあった
ようである。
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