2014年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★優れた日本式ものづくりの発想と落とし穴
   

 一本の象牙から掘り出された見事な筍の造形に本物と見紛うばかりの鮮やかな彩色が施され、見る者の目を奪う。安藤緑山の 代表作「竹の子、梅」(京都・清水三年坂美術館蔵)はテレビや新聞でも紹介され、いま三井記念美術館(東京都中央区)で開催中の 「超絶技巧!明治工芸の粋」展に出品されている(7月13日まで)。安藤緑山に弟子はなく生前の足跡を知るものは今、誰もいないという。 象牙に着色するという大胆な発想はいったいどこから生まれたのだろうか。

 江戸時代、根付と呼ばれた装飾品があった。現代のストラップのようなもので印籠や巾着を着物の帯などに付けるときに使われた。根付師はこの根付をつくって 生計を立てていた職人である。明治になって洋装が広まると根付の需要は激減した。しかし、腕のいい職人の作品はアメリカやヨーロッパの富裕層に好まれ作品の 多くが海を渡った。このころから小物だけでなく大きく芸術性の高いものがつくられるようになる。象牙を素材にした牙彫(げちょう)は象牙の独特な色合いを 生かした彫刻であったが、牙彫師安藤緑山はこの象牙に彩色を施すという大胆な作品をつくり続けた。代表作「竹の子、梅」はそんな昭和初期に作られた作品では ないかといわれている。
 江戸時代の職人たちが生き残る道を模索したように、厳しい今日の経済状況の中で「ものづくりの心」をつなぎとめる原動力はいったいなんだろう。

 医療機器の分野に目を転じれば、日本の医療機器の貿易収支は輸入超過で約6000億円の赤字となっている(2008年集計値)。これはおよそ2.2兆円といわれている 日本全体の医療機器のマーケット約3分の1にあたる。

 こうした背景から、国は貿易赤字の解消や国民の健康寿命の延伸を国策として掲げている。その戦略の一つに経済産業省が進めてきた医工連携による医療機器 開発促進というものがある。
 先ごろ新潟で開かれた第89回日本医療機器学会(堀田哲夫会長・新潟大学医歯学総合病院手術部 病院教授)では、「オールジャパン・産学官連携による本学会の 新たな戦略」を大会テーマに据え、新たな医療機器の開発戦略を模索するという大会となった。大会長の堀田氏は、世界から立ち遅れた日本の医療機器開発を回復 させるためには「治らない病気を治したいという原点に返って、医療機器産業、医学、行政が密接に連携し、各々が高いモチベーションを持って医学の進歩に貢献 する日本オリジナルの医療機器を開発することが必要だ」と強調した。

 海外では高く評価されながら日本国内ではほとんど顧みられることのなかった技術や研究も数多い。アイディアが製品になるまでの間にはとてつもない忍耐と努力 が必要であり、それを支える原動力が必要である。やはり「人の役に立ちたい」という純粋な心が湧き出てくることが大事なのかも知れない。

 
 
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